不思議なエステ 1&2
2012 06/09 10:12
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これはちょっと遠い未来のお話。



「いらっしゃいませ」



《AQUA・EsthetiqueJELLIS/Nozomi》と、ロゴの入った磨りガラスが左右に開くと、そこは全てが中間色でまとめられた、柔らかい雰囲気の店内だった。



正面にあるカウンターに座っていた、エステティシャン姿の女性が静かに立ち上がり、笑顔でお辞儀をする。透き通る様な肌の美しい女性。



「あの・・予約を入れてた蛙石なんですけど」



そう言って会員証を差し出すと、カウンターの女性は「はい」と応えてそれを受け取り、カードリーダーへ通すとキーボードを素早く操作した。



「ありがとうございます蛙石様。本日はSSEコースをご希望ですね。蛙石様はこちらのコースは初めてでございますか?」



「あっ・・はぃ」



私が少し照れて答えると、カウンターの女性はニコリと微笑んだ。



「ご安心下さい。実は私もよく使わせてもらってまして、きっとご満足頂けると思います……」



簡単な説明を終えた女性は、私に会員証を返しながら再びにこやかに微笑んだ。


「それでは蛙石様のお部屋はE−6になります。SSEコースの入口はこちらですので…」



女性がキーを叩くと、カウンターの横の壁に突然通路が現れ、私を驚かせる。どうやら壁全体が細密な立体映像の様だった。その様子に親しみ易い感じの笑顔を送り、カウンターの女性はもう一度お辞儀をした。



「どうぞごゆっくりお過し下さい」



私が緩やかな照明の通路を進むと、幾つもの扉が並ぶ区画へと出た。区画にはしっとりとした音楽が静かに流れている。



扉には小さな表示燈が着いており、緑の光のものは「空き」赤の光のものは 「使用中」を示していた。扉は半数以上が赤い光だった。



・・やがてE−6の部屋を見つけた私は、会員証を扉の横のリーダーに通した。シュッと微かに空気の漏れる音がして、ロックが外れる。



中に入ると、そこは照明を控え目にしたエステ台のある小さな部屋と、人一人分のシャワールームに分かれており、そして台の向こうにも扉があった。



すると物静かな女性の声がどこからか響いて来た。



[いらっしゃいませ蛙石様]


それはこの部屋を管理するコンピューターの電子音声だった。



[お召し物をお脱ぎになり、台の上にお乗り下さい]


このコースは初めての私は少しドキドキしながら服を脱ぎ始めた。会社の先輩や同僚も最近ハマッているこのコースに、私もようやくチャレンジしてみる気になったのだ。



下着まで脱いだ私は、ゆっくりと台の上にうつぶせに寝そべった。



[両脇にご注意下さい]



すると、エステ台の横腹の位置ぐらいの床が丸く開き、頭頂部が透明のドームになった直径30センチぐらいの、銀色をした筒が伸び上がってエステ台と同じ高さになる。



[これよりマッサージに入ります]



コンピューターの声が静かに告げると、透明のドームが開き、筒の中から青い半透明のゼリーの様なものがドロリッ・・と湧き出して来た。



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私の両脇に現れたそれは、よく見ればブルブルと自分で動いていた。ゼリーと言うより、巨大なアメーバという感じだ。



そしてそれは、筒を這い出し、うつぶせに寝そべる私へゆっくりと近づく。その先が肌に触れた瞬間、私はピクン!と体を小さく震わせた。



これが初めてという訳でもないけど、最初の接触だけはなかなか馴れる事は出来ない。



『スライムエステ』は近年開発された、ゲル状擬似生命体『スライム』を使ったエステ。



『スライム』はアメーバを超巨大にした様な不定型の体をしている。アメーバの様に単細胞生物(笑)ではなく、超小型のロボットであるナノマシンを核にした合成細胞で構成されていた。


状況に応じて形を変える『スライム』の開発は、当初は不気味がられていたものの、医療から宇宙・海底開発まで、あらゆる分野で人間社会に様々な恩恵をもたらし、広く認知されるようになっていった結果、今ではロボットペットの一種として街角で売られるまでになっているのだ。



それをエステ用にプログラムしたものを、このサロンでは使用しているけど、全国でもまだ十数軒しかない。



私の背中に這い上がったスライムは、吸収性の高いコラーゲンを含む粘液を分泌しながら薄く広がって体を震わせ、マッサージを始めた。



ナノマシンが血液の循環状態を計測しながら、最適の強度で肌を刺激すると、私は全身がリラックスしてゆくのを感じた。初めてこのサロンを訪れた日、スライムを見て悲鳴を上げた時の事が嘘のようである。



背中に続いて仰向けになり、全身マッサージを受けると、通常のSEコースは終わりである。



しかしこの日の私が選んでいたのはSSEコースだった。



ピーン!という電子音が響き、コンピューターの音声が続く。



[これよりSSEコースとなります。しばらくお待ち下さい]



同時に室内に流れる音楽が、それまでのゆったりとしたものから、ちょっとアップテンポの淫情的なものへと変わる。ただ音量は大きくなく、耳障りとなる程ではない。



[ご希望のモードを、選択して下さい]



コンピューターの音声が再び響き、仰向けになっている私から少し離れた高さに、四角いボタンが五個一列に並んだ立体映像が現れる。



そのボタンには端から
“Soft”
“Normal”
“Hard”
“Very Hard”
“Super Hard”
の文字が書かれており、私が“Normal”と書かれたボタンに指先を置くと、立体映像は消えて、[ノーマルモード、ありがとうございます]とコンピューターが応じる。



すると、ベッドの両側の筒からさらにスライムが現れて、私をマッサージしていたものと合体し、分厚く膨らんで、仰向けになっている私の肌を、さざ波の様な動きで、滑らかに撫で回し始めた。



それまでのマッサージに似た動きだけど、スライムが厚さを増した分、力強さが加わっている。



その刺激に私は、何本もの指が体を愛撫しているような感覚に陥り、興奮を感じ始めた・・・・。



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